宝石とは、まず、美しいものです。美しくなければ宝石ではありません。美しさは、もっとも基本的な、いや、絶対的な宝石の条件です。人間は、古来から、宝石を神秘的なものとして捉え、畏怖の念をもって接し続げてきましたが、それは宝石の類い稀なる美しさ故のことだと思われます。
また、宝石の美しさとは、永続的な美しさです。桜の花の美しさは、その短い生命のはかなさにこそあるのかもしれませんが、宝石の場合はちがいます。その美しさは長く続きます。長く続くものでなくてはなりません。
宝石とは、日常生活のなかで、身に付けて楽しむものであり、そのためには当然耐久性というものが重要になるのです。ちょっとした衝撃で割れてしまったり、ひっかきキズがついたり、ペアースプレーや香水の影響ですぐ変色してしまったりしたのでは、安心して身につけることができません。
衝撃や熱、薬品などの作用に、かなりの程度耐え、美しさを長く保てるだけの耐久性をもっていることか大切です。つまり美しさに結びついた耐久性、これが宝石の条件の、二つめの要素だと云えます。
さらに、宝石とは、稀少性のあるものです。宝石と呼ばれる物はほとんどが鉱物なのですが、その鉱物は、この地球上に、5000種類近くあるとされています。しかしそのなかで、宝石鉱物として区別されるのは、わずか50種類余りです。美しさと耐久性を兼ね合わせた鉱物は、それほど数すくなく、これだけでも宝石の稀少性が窺い知れます。
さらに、同じ宝石でも、美しさの差によって、稀少性が変わってきます。より美しい(つまり品質の良い)宝石ほど産出量がすくなく、さらにはそこに人気が集中するので、当然、稀少価値はより高くなる訳です。だから宝石の価値とは、美しさに結びついた稀少性にあると云えます。そしてそれが価格に反映するのです。
このことは、天然宝石の成分を混ぜ合わせ、人工的に作り出した合成石の価値と比較するといっそうはっきりするでしょう。合成石は、単なる美しさと耐久性の点において、天然宝石に劣りませんが、稀少性には全く欠けています。合成石は、設備さえ整えば、同じものを際限なく大量生産することが可能だからです。さらに重要なことには、合成石の仕上がりは画一的で、天然宝石がもつ美しさの稀少性をもってはいないということです。
天然宝石に二つとして同じものはありません。一つひとつがちがっています。なぜなら、この地球という名の小さな惑星の奥底で、膨大な時間をかけて生成された、それは、天然の産物だからです。宝石の稀少性とは、この稀少性です。そしてこの稀少性が、美しさと結びついたとき、それが宝石の価値を決めるのです。
このように、宝石とはまず美しいものであり、その美しさを長く保つための耐久性をもち、さらには稀少性のあるものだと云えるでしょう。
*註).鉱物種と宝石名は異なる場合があります。たとえば石英というひとつの鉱物種は、水晶、アメシスト、シトリン、ローズクォーツなど、いろんな宝石名で呼ばれる変種をもちます。ルビーとサファイアは、一見どれほどちがって見えたとしても、同じコランダムという鉱物種の仲間です。ですから、これら宝石名でよぶ宝石の種類となると、150種類くらい、一般に流通しているものに眼ると、50〜70種類ぐらいになります。また、宝石には、鉱物だけでなく、有機質のものも含まれます。真珠やサンゴ、こはくなどがそうです。しかし有機質のものは宝石中例外で、ほとんどが無機質の鉱物です。
|