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■『やさしい宝石教室Q&A』
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20 最近「エンハンスメント」という言葉をよく聞きます。これはどんな意味なのですか?
  「エンハンスメント」という言葉を最近耳にされたのなら、きっと、「トリートメント」という言葉もいっしょにお聞きになったのではないかと思います。このふたつの言葉は、ともに、天然宝石の人工処理、に関係する言葉です。

人工処理にはいろんな種類があります。熱処理、放射線処理、オイル処理、染色などです。熱処理にはいくつかあって、オイル処理にもタイプがあります。それらの自的はすべて、宝石の美しさをより良くしたり、変えたりすることです。

はじめて知るひとはびっくりするかもしれませんが、ルビーやサファイアを加熱して、色をより良くするという処理は、ずいぶん以前から行われてきたことです。また、現在流通しているエメラルドのほとんどに、オイル処理が施されています。

トリートメント(TREATMENT)は、直訳すると、処理、という意味です。日本では、人工処理、と訳して、以前から使われていた言葉です。人工処理という言葉は、天然宝石の人工処理すべてに対して使われていました。言葉の本来の意味からすれば、例に挙げたルビーやサファイアの加熱処理、エメラルドのオイル処理なども、当然これに合まれます。けれど、それらは、鑑定鑑別機関では天然宝石と表示され、天然宝石として流通していた訳です。

ユーザーの宝石に対する知的好奇心の高まりに連れ、鑑定鑑別機関や宝石業者は、処理宝石とはいったい何なのかということを、消責者に向けて、もっと明確に提示する必要が生まれはじめました。エンハンスメントという言葉は、これらの要請に従って、新しく導入された言葉です。

エンハンスメント(ENHANCEMENT)とは、改良、を意味します。天然宝石が本来もっている性質に沿い、それを損なうことのない範囲で、人工処理を施し、よりよい美しさを引き出そうとすること。これが改良です。改良は、定義上、トリートメント(人工処理)と明確に区別されます。すると当然、いままで漠然としていたトリートメントの定義は、変え直されるべきでしょう。つまり、天然宝石の性質に関係なく、人工処理を施し、美しさを変えようとすること。これがトリートメント、宝石に対する人工処理の新しい定義です。

ルビーやサファイアの加熱処理は改良である、と考えられます。たとえばサファイアの場合、酸化チタンが青色の原因になっています。しかしこの着色元素(専門的にはそういいます)である酸化チタンは、石のなかで、針状に固まってしまっている場合があります。これではいい青色は出せません。そこでこれをたいへんな高温で加熱してやります。すると酸化チタンは溶けて、着色元素としての働きをはじめます。すると色の淡かったサファイアか、深く濃い色合いのサファイアに変わるのです。(こういう処理を専門用語で内部拡散処理と云います)。

これはたしかに人工処理ですが、天然サファイア本来の性質を変えた訳ではありません。むしろその性質に沿って、自然がたまたまできなかったことを、人間がかわりにしたのです。目的は美しくするためです。変えられた色は永遠です。これがエンハンスメント、改良です。改良されたものは、天然石の性質をなんら変えるものではないので、天然石と同様に扱われます。ほかには、アクアマリンやトパーズを加熱して色を良くしたものも、改良と考えられ、天然石と呼ばれます。また、エメラルドの内部の亀裂に無色オイルをしみこませ、亀裂を目立たなくする、そうすることで色を良くするという処理も、改良と考えられます。

いま例に挙げたエメラルドは、有色オイルを使って、処理される場合もあります。目的は同じく、色を良くするためです。しかし有色オイルを使うのは着色です。それはエメラルドが本来もっている性質に関係なく、色を変化させることです。これがトリートメント、人工処理です。色の薄いサファイアを、合成配分された着色剤(チタンと鉄)の粉末といっしょに加熱処理して色を濃くする処理(表面拡散処理)や、染料を用いてひすいを染色する処理などもまた、トリートメントと見なされます。

それらの処理石は、定義上、エンハンスメントと混同されることはありません。鑑別書にはそれぞれ、処理エメラルド、処理サファイア、染色ひすいと明記され、天然石とははっきり区別されます。

エンハンスメントという未知な言葉が急に入ってきて、いま、その言葉だげが独り歩きしているように思われます。しかしそのいきさつと、内容はだいたい以上のようなことなのです。おわかりのように、基木的には、以前となにも変わることはありません。以前から、内部拡散処理のルビーやサファイア、無色のオイル処理を施されたエメラルドは、天然石として扱われていましたし、これからもそうです。有色処理のエメラルドや表面拡散処理のサファイア、染色処理のひすいは、以前から処理石とされていましたし、これからもそうです。混乱せずに、このことをはっきり認識してください。

重要なのは、人工処理とはなになのかということを、知ることです。そのなかには、天然石として容認できるものとできないものがある、それを知ることです。

今回の一連の流れは、この点をクリアーに認識すべく、非常によい機会であったと思えます。




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